花束男とフラワーイーターガベッジボックス

私は花束が好きではない。

女子へのプレゼントとして重宝するので、
花屋で売っている2000円の出来合いの花束は便利に使うが、その程度。
自分で買って家に飾ったことはない。枯れるし世話が面倒だし。
結婚祝いにもらったイッタラの花瓶は段ボールにしまわれたっきり、もう何年も眠りについている。


花束といえば思い出す男がいる。
社会人前半でおままごとのように付き合っていた5歳上の男性がいて、まぁ、もちろん既婚だったのだが、彼はことあるごとに花をくれる人だった。
会社帰りに待ち合わせして、ご飯食べて、花束をくれて、恵比寿のホテルに行って、帰宅というゴールデンコースを何度経験したかわからない。
今となってはそんな夜遅くなるコースは次の日の仕事に影響がでるので絶対やらないが、若さとはすばらしい。何回戦致そうとも何ともなかった。
そして私は恵比寿の5軒程度しかないラブホテルの混雑状況に異様に詳しくなった。

 


しかし、誕生日でも記念日(そんなものはそもそもなかったが)でも何でもないのに花束をくれるというのは一体どう心境だったのか、当時から不思議に思っていた。
それまでそういうイベント日でも花束をくれる男と懇ろになることがなかったということもあり、疑問を通り越し若干不気味さまで感じるようになったころ、さすがに意図を聞いてみたことがあった。

 

我、「どうして花束なんてくれるんですか?きゅるん☆」
花束男いわく、「いや、あげたくなって」
花束男いわく、「いや、花屋でたまたま見つけたから」
花束男いわく、「いや、花束って素敵じゃない?」

 

その答えになっていない回答に対して、
の悪い私は曖昧に笑うことしかできなかった。


今思えば素直に言えばよかった。
「邪魔なんでほんと要らないです」、と。
何せ、私だって既婚だったのだ。
理由もなく妻が花束を持って帰ってきたら夫に怪しまれると思わないのか。
一回だけなら何らか言い訳はつく。
あまりにも回数が多い。言い訳のネタもとっくに枯れた。

 

普通に考えたら気づくだろう。が、花束男はそういう意味では普通でない奴だった。
おそらく花束男の会社から待ち合わせの恵比寿までの間に、青山フラワーマーケットでもあったのだろう。
ピコーン!おれ、いいこと思いついた!ジョシハナタバスキ!みたいな。
お前のニューロンシナプスの繋がりを全部断ち切って繋ぎなおしてやろうか、と言えなかった当時のへたれな私。
うわーうれしーきれいーかわいいーと、頭の悪さを全面に出したお礼を言って、全てありがたく受け取っていた。
ガーベラが多かったのはなんとなく覚えている。
安い割に派手に見えるもんな、ガーベラ。

 

 

 

そしてその花束軍団はどうなったか。
答えはJRの某駅の改札内のごみ箱だけが知っている。